囂庵コラム アーカイブ

訃報に接して

生于太平世 太平の世に生まれ
長于太平世 太平の世に長じ
老于太平世 太平の世に老い
死于太平世 太平の世に死す
客問歳幾何 客は問う 歳いくばくぞと
六十有七歳 六十有七歳なり
俯仰天地間 天地の間に俯仰し
浩然無所愧 浩然としてはずる所無し

北宋の学者、邵子・邵康節(1011~1077)の詩「病亟吟」であります。

人は、大騒ぎしてこの世に誕生し、無知のまま人生というレースに参加し、失敗に失敗を重ね、知を極めていく。 やがて、かくも自然に穏やかに淡々と、生長老死のレース場から消えることが出来るものかと感心している。

余も、もはや死ぬほど浮き世の歳を経た今、おのが人生そのものが、一つのレースのように達観されておもしろい。

前を走る人の影が徐々に減り、すでに余は間違いなく、先頭集団を形成している一員であることに気がつく。

それもまことに自然のことで、全宇宙の取り決めの中にあることに、あらためてほっと安心する。

なんと、清々しいことか。
余はまさに人生のランニングハイ状態を得ようとしているのだ。

邵子・・・邵(しょう)康節(こうせつ)。北宋の学者。宋学の提唱者。名は雍(よう)、字は尭夫(ぎょうふ)。康節は諡。河北范陽の人。易を基礎として宇宙論を究め、周敦頤の理気学に対して象数論を開いた。