再現CGは仮説検証の証明になるのだと、余は日頃から思っている。
ありがたや、ありがたや。
さてさて、雪で足止めの日々が続く今日この頃、時間つぶしにと、気になる写真をひっぱりだし、Shade3Dで久しぶりに遊んでみた。
その一枚が、余が「虎革敷物写真シリーズ」と銘打つ写真からの一枚だ。
この写真を選んだわけは、この古写真に写り残る気になる「影」の存在だ。
先ずはそれを整理しよう。
① 若侍が腰掛けている平台の左側で、斜めに影が切れていること。
② 平台の「影」とクロスする「影」が、上手の壁に並行に置かれた平台の影と、15°前後交差していること。
③ 地面に落ちる平台の「影」から飛び出している細い「影」があること。
これらの「影」の存在は、この写真の撮影時期や撮影条件を推測させる仮説の、重要な「鍵」となるのだと余は思った。
この古写真に写る「平台」と「その影」を見ると、太陽は「画面の上手」つまり画面の右側方向にあることが容易に知れる。しかも見た目の仰角は5〜60°位はありそうだ。
さらに、平台の前面部分に太陽の漏れ④があることを、見逃してはならない。
太陽のその時の位置は、被写体の武士たちから見て、正面よりやや左かなり上方にあるということだ。
しかし、彼らたちは頭上の白布で完全に太陽光を遮られているため、ちっとも眩しくはないのだ。
さて、この写真いったい何時撮られたものかが、余が最終的に知りたいことではあるが、その解明はそんなにあまくない。
取り敢えず、影の関係から太陽の高度と方位をShade3Dシミュレーションで求めよという段取りでスタートだ。
先ず、一般論として、平台の前面部分に太陽の漏れ④から、キャメラが北から真南を向いているということはない。
キャメラが南向き=×
もし、キャメラが東方面から真西を向いていたら、この写真の場合キー光線である太陽が北にあるということになり、西向きもあり得ない。
キャメラが西向き=×
よって、この写真の場合、キャメラが真西から真南向きということは絶対無い。
今わかることは、東を向いていたら、午後の太陽となり、北を向いていたら、午前の太陽となることだけだ。
影の状態は太陽の方位と高度によって日々刻々と変化する。
キャメラと被写体のある方角によって時間は同じでも結果は当然全く異なってくる。
そこで、取り敢えず!!! CG検証は真北向きではじめるとする。
サンプル日をいろいろ変化させ、写真と近似した条件の太陽高度と方位を求めた。
そして古写真同様の画像を得た結果は、4月30日9時55分の設定で、太陽高度59°方位125°という結果を得た。
太陽の仰角が、つまり高さが55°を越えている時間を国立天文台のこよみ計算ページから求める。
場所はもちろん京都。ただし今回はShade搭載のデータの都合上近接地大阪の太陽運行データを使用する。
今年、大阪で、太陽が最も高い南中の時間帯で高度が55°を越えたのは、
2018/03/20 55.1 176.7
から
2018/09/23 55.3 183.3
までの間だ。
つまり、件の古写真は3月20日から9月23日の間に撮られたことは確実だ。
被写体のお三方の衣裳は春秋ぽいっうことで、するってえと、3月4月だろうねと推測する。
ちょうどサクラが満開の頃から中秋の名月の頃までだがクソ暑い夏場は除外だ。
とはいうものの相変わらず、何時何時とはいかない。こんな結論では話しにならない。
いくら合理的な事実としても、絞り込み不足でちっとも面白くない。スマートでない
しかししかし、影のポイント①②は、被写体の人物を太陽からの直射を避け、かつ太陽光を柔らかく拡散する白布が、上手の壁に対して並行になっていなかったためであることは判った。
つまり、屋外の仮写場では太陽の状態にあわせて、布で遮光したり外したりフレキシブルな対応が、すでにひとつの写真師の技として存在していたのかも知れないことを想像できた。
③の影が写場のセンター構造物で、写場の構造を支えている丸太であろうことも判明した。おかげでこの葦簀(よしず)で囲った写場の様子まで想像を発展させることができた。
影から出た「マコト」とは行かなかったけれど、とりあえず、話しの種ぐらいにはなったでしょ。
さらに余の妄想は続く。
斜めの影は、キャメラに種板ををセットする時間などに手間取ってオシテしまって現れたのかもしれないとか・・。今流に、まあいいからイッチャエイッチャエのノリで、案外この写真師さんたちはチャライ人達だったかもしれないとか・・。
まあ、こうして、写場の雰囲気やスタッフの様子までこの影は語ってくれたんだと、独りよがりで、ホントはため息をつく。
でも、かげだって馬鹿にならない知的刺激要素になるっうのがお解りいただけましたね。
よかったよかった。
ちなみに、
4月30日9時55分、太陽高度59°方位125°は、
長沢工の計算式結果とこのデータを比較して見ると、結果は見事に一致した。
ただし困ったことに、国立天文台の計算とは完全には合致しない。
理由としては、Shade3Dの太陽運行のプラグインは長沢工の計算式を使用しているためと考えられる。
そのへんの詰めの甘さは、ギョウカイ学会一様に大目に見て頂いたとして、ひとまず写場の概要はこれで良いとする。
次のビデオは、4月30日の朝8時から午後3時までの太陽の当たり方を一分一コマでナニしたものです。
太陽高度59°方位125°に関しては揺るぎないが、これは日時を特定する絶対条件ではない。よって、別のデータなり史料なりから情報を補完して、撮影日時間をオーソライズしてゆかねばならんのだ。
とはいえ、写真に残る影だって、時には大いに証拠としての能力があることを強く強調してこの段をとりあえず収めたいと思う。
お付き合い感謝!